eコラム01 自費出版トラブル

c業界的に、ぶっちゃけどんなトラブルがあるの?

インターネットで「自費出版」と検索しようとすると、検索候補に必ず上がってくる言葉があります。

そう、トラブルです。

なぜ、自費出版にはトラブルが付きまとうのでしょうか?
それは、出版業界の特殊さ、特有の言葉、独自の慣例などが一般には知られていないからです。

自費出版は、決して安いものではありません。
よくあるトラブル事例を見て、同様のトラブルが起こらないようにしましょう!


d事例1:見積のときよりもどんどん費用が増えていく!

いちばんありがちなトラブルは、やはり費用の問題です。
「見積では100万円って言われたのに、実際には200万円請求された!」
「なんど聞いても、料金の詳細な内訳を教えてくれない……」
「この金額は安いと言われたのに、実際は他社と比べたら高い金額だった!」
etc……

金銭面でのトラブル例は、分かりやすいためかインターネット上でも数多く見られます。
よくあるトラブルを簡単に言い換えると、

  • 見積よりも実際の請求額がかなり高かった
  • 費用の詳細な内訳が分からない
  • 費用の相場が分からない

といったところでしょうか。

自費出版が広く普及する前は、詐欺まがいの業者もいたようです。
しかし、大手から中小まで、多くの出版社が自費出版を取り扱うようになって、そういった「あくどい会社」は現在はそうそう残っていません。

ではなぜ、いまだに金銭面のトラブルが起こってしまうのでしょうか?

出版社が「嘘をついている」というわけではないと思います。
ただ、残念ながら「詳しく説明してくれない」出版社はやはり存在します。

費用の詳細な内訳が分からないと、その費用内でどんなことをしてもらえるのか分かりません。
そのまま契約をしてしまうと、本を作るために必要なサービスが料金内に入っていないことを後から知らされることになります。
そして、最初の見積には入っていなかったサービスを、後からいろいろ付けられてしまう、という悪い流れができてしまいます。


金銭面のトラブルを避けるためにも、必ず正式に契約を結ぶ前に、見積金額の詳細な内訳について確認しましょう。
そうすれば、見積内に含まれているサービスが分かります。
見積時点で含まれていないサービスがある場合は、きちんと確認しましょう。

印刷・製本、組版(ページレイアウト)の作成作業、校正・校閲、内容へのアドバイス、装丁デザイン、挿絵の作成、手書き原稿の入力、書店流通、営業活動や広告出稿など、1冊の書籍を作るのには、さまざまな作業が必要になります。

もちろん、自費出版なので、この全てのサービスが必要なわけではありません。
私家版として流通をしないということや、自分で全てレイアウト作業を終わらせてしまうなど、さまざまな場合があると思います。
自分の望むサービス内容が見積に含まれているのかどうか、が重要です。

また、後から追加になる可能性のある作業内容やサービス、出版後を含めて後々かかる費用が無いかどうかも確認しておくと、より安心ですね。 ▲ トラブル事例一覧に戻る


d事例2:出版賞に応募したら……

また、出版賞やコンテスト絡みのトラブルもよくあります。

これは、「コンクールやコンテストに入賞すれば、出版社が費用を負担して出版を行いますよ」というものに関するトラブルです。
出版賞やコンテストは自費出版社から大手商業出版社まで、各社が行っています。
もちろん、こういった出版賞そのものが悪いわけではありません。

出版賞に応募したら、その会社からたびたびセールスの電話がかかってくるようになってしまった、とか、落選してしまったが「出来が良いので、少し手直ししてうちから共同出版で出さないか」と勧められて出版したら高額費用を請求された、とか。
コンテストに応募した結果、これまで考えてもいなかった話がいきなり出てきたり、それに振り回されて迷惑をかけられてしまうことが問題なのです。

まずは、いったん落ち着いて深呼吸しましょう。

セールスの電話は、不要なのであればはっきり断ってしまいましょう。
「わたしは自費出版をするつもりはない。賞に入らなかったのなら、今後の連絡はしないでほしい」と。
断ってしまっても、あなたに不利益はありません。
もし、ちゃんと考えた結果、自費出版をしようとなったら、そのときに改めて自分から連絡をすればいいのです。
自費出版をするとなったら、あなたは出版社にとっては「お客様」です。
無下にされるはずがありません。

また、「惜しくも落選したけれどとても良い作品だったので、本来○○円のところ●●円払えば本を出版できますよ」といった類いの話も、その場で返事をせずに、いったん時間をおいて考えましょう。

厳しいことをいいますが、本当に良い作品だったのであれば、「ここをこう直してくれたら、ウチが費用を負担して出版します」という話になるはずです。
著者が費用を負担するのであれば、それは自費出版と変わりありません。
他社と比べて、同じサービス内容で明らかにかかる費用が少ないという事であれば、共同出版として出版社もある程度費用を負担しているのでしょう。
でも、そうでなければ、上手いことを言って自費出版を勧めようとしているという事になります。

最初から、「賞に入らなかったら自費出版にしよう」と考えていて、妥当な金額で出版する、というのであれば何の問題もありません。
本当にその金額で、その出版社から本を出したいのかどうか、一度落ち着いて考えてみましょう。 ▲ トラブル事例一覧に戻る


d事例3:本屋で自分の本が並んでいない!

書店流通に関するトラブルも、よくお話を聞きます。
「近所の本屋に行ったが、私の本が置かれてなかった!」
「大きい●●書店に行ったけど、私の本が見つからない!」
これは、書店や本の流通のことについて知識が少ないために起こる齟齬が原因になっていることが多いです。

みなさまは自費出版をするとき、本の部数は何部くらいを考えていますか?
少部数から対応している出版社だと、500部前後でも書店流通を行うことができます。
多く刷るとしても、1,000~3,000部くらいではないでしょうか?
初版時に5,000部や10,000部を刷るというのは、売れている商業作家さんくらいでしょう。

さて、では対する書店の数はどれだけあるでしょう?
2023年3月28日時点での全国の書店数は、1万1495店だそうです。
書店が減っていると言われている現在でも、これだけの書店数があるのです。

単純に考えても、すべての書店に本が置かれることは無いということが分かります。
そうすると、まず地方の書店や売り場面積が小さい書店は配本(本が配られる)対象ではなくなってしまいます。

また、本が置かれるとしても、「各書店への配本は1冊ずつ」という形が多くなるため、表紙が見えるような平積みにされることはほぼありません。
もし配本がされていても、店頭では背表紙が見える形で、棚に刺さっていることがほとんどでしょう。

「書店で流通をする」というだけでは、「どの本屋に行っても、目立つように平積みで置かれている」ということにはなりません。

本屋で目立つ位置に置いてもらえたり、平積みにされたり、POPを付けたりなどは、出版社の営業担当が書店員に働きかけて行ってもらうことです。
これは、基本料金内に含まれていたり、オプションとして別途料金が必要だったりと、出版社によって様々です。
ご自身の見積内で「書店流通はどの程度・どの範囲で行ってもらえるのか」ということは、事前にきちんと確認した方が良いでしょう。 ▲ トラブル事例一覧に戻る


d事例4:売れたら儲けが出ると言われたのに……

「本が売れたら費用が回収できますよ!」
「増刷したら利益はすべて著者のものです!」

書店流通を迷っているときに、出版社からこう勧められたことはありませんか?
ここで、何も考えずに「利益があるなら流通もしてみようかな」と決めてしまうと、後々「こんなはずじゃなかった!」ということになります。

現代では、出版社が企画を立てて発行する書籍であっても、その本単体で利益を上げるのは難しいと言われています。
あるベストセラーが生み出す利益で、他の書籍の赤字を穴埋めしている、なんてことも珍しくありません。

では、自費出版の書籍ではどうでしょうか?
書籍は、販売価格の全てが出版社や著者に払われるわけではありません。
書店や取次店のマージン、倉庫での管理費や配送料など、さまざまな経費が引かれていきます。

ここから、著者と出版社との取り決めによって、支払われる金額は変わります。

  • 実売部数を計算し、実売部数×定価の●%
  • 初版の部数×定価の●%
  • 初版時は支払いなし。増刷されたときに、増刷の部数×定価の●%

軽く例を出しただけでも、さまざまな支払い形態があります。
自費出版に一番多いのは、「実売部数×定価の●%」というタイプではないでしょうか?
出版社によって異なりますが、この場合は、定価の10~50%が著者に支払われる、ということが多いようです。
この場合は、売れれば売れるだけ収入も増えますが、そもそも書籍を製作するのに費用がかかっているため、売上が全て黒字分だというわけではありません。

もちろん、中には利益が出るような本もあるでしょう。
しかし、ほとんどの著者は、赤字のまま終わってしまうことが多いです。
プロが作る商業出版でも赤字になるのだから、一般人が作る自費出版で黒字になることは相当難しいのは分かると思います。

「費用が回収できる」「黒字になって利益が出る」という言葉は、よほどでない限りは一度疑って、詳細を確認する方がよいでしょう。 ▲ トラブル事例一覧に戻る


d事例5:他社から同じ本を出したいけど……

ある出版社で本を自費出版した後、異なる出版社からもう一度同じ本を出そうと考えたことはないでしょうか?
または、本の内容の一部、または全部をネット公開したいと考えたことはないでしょうか?

「自分で書いた原稿で、自分がお金を出して製作した本なので、他社から出版することになんの問題があるのか?」
そうお考えの方も多いと思います。
しかし、本当にそうでしょうか?

通常の商業出版の書籍は、著者といえども他社から勝手に同じ内容で本を出版することはできません。
出版権(版権)が出版社にあることが多いためです。
出版権とは、その名の通り、その本(著作物)を出版する権利なので、版権を出版社が持っていると、いくら著者であっても同じ内容の本を勝手に出すことができなくなります。

自費出版では、著作権はもちろんですが、出版権も著者が持つようになっている会社も多いです。
ただし、原稿内容について出版社側からアドバイスをもらって共に作り上げていくようなタイプの自費出版は、出版権を出版社が持つような契約になっている会社もあります。

後々他社から出版することが無い場合も、実際に申し込む前に、出版権は契約上どうなっているのかをきちんと把握した方が良いでしょう。 ▲ トラブル事例一覧に戻る


d事例6:なんで自分の本を自分で買わなきゃいけないの?

たとえば、著書を知人に配っていたら、思っていたよりも評判が良く、手持ちの分が足りなくなったらどうしましょうか?
流通用の在庫が出版社にある場合は、それを送ってもらおうと考えるでしょう。
しかし、契約時にきちんと確認していないと、在庫を引き取ろうとしたときに思わぬ落とし穴がある場合があります。

「流通用の在庫を送る場合は、著者様の買取りになります」
「書店で購入してください」
こう言われる可能性は皆無ではありません。
実際に、「著者が流通在庫を引き取るときは、定価の●%での買取り」などと決まっている出版社もあります。

出版社が費用を負担して製作した本であれば、本そのものは出版社の財産になるため、買取りの金額が必要になるのは普通です。
しかし、自費出版は、著者が費用を負担して製作した本で、流通を行うにも著者が出版社に費用を払っています。
この場合は、製作した本は、著者の財産ということになりますので、買取りが必要になるのはおかしいでしょう。

良心的な自費出版社であれば、在庫の引き取り時に、送料実費以外の費用がかかることはありません。
きちんと契約前に在庫の引き取り時の決まりについて確認しておきましょう。 ▲ トラブル事例一覧に戻る


d事例7:絶版しない、出版権は永遠に切れない、という出版社もあるけど、それって良いことよね?

色々な自費出版社を比べていると、それぞれ案内している内容が違うと気付くと思います。
特に、書店流通に関しては、業界外の方々から分かり難い部分ですので、各社それぞれ言っていること・契約内容などが違っていることも多いです。

例えば、自費出版の会社の中には、
「うちでは、絶版はしません!」
「出版権は永遠に切れませんよ!」
と謳っている会社があります。
一見すると、流通を行う上で手厚いフォローがされているようにも見えますが、これらの会社が安心であるとは限りません。

「絶版」とは、「出版後の本の販売を取りやめること」です。
販売を取りやめるのではなく、在庫がなくなった際の「増刷や重版が未定である」状態は、「品切れ重版未定」として扱われます。
書店流通上は「絶版」と「品切れ重版未定」は異なるものとして取り扱われますが、在庫が無い状態なのは絶版も品切れ重版未定も同じです。
絶版がないと言われていても、品切れとなったときに必ず増刷・重版がされるといった保障はありません。

「出版権」とは、出版者が本を複製・頒布することができる独占的な権利のことです。
独占的に出版を行う権利ですので、出版権を持っていても、出版を行う義務を負うわけではありません。
そのため、出版権が出版社に設定されているからといって、必ず本が販売し続けられることが保証されているわけではありません。
また、出版権が出版社に設定されていると、出版社が増刷・重版をするかどうかを判断することになりますので、著者の意見を反映することができなくなってしまいます。
つまり、出版権が設定されていても、品切れ重版未定になることがあるということです。

つまり、「絶版がない」「出版権は永遠に切れない」と大々的に謳っている会社は注意が必要ということになります。
著者の利益を考えれば、自費出版では出版権を設けないのが、適正な出版社といえます。
よく契約内容と実態を確認するようにしましょう。

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